働くと基本的に従業員は給与明細がもらえます。しかし、稀に給与明細を発行しない会社が存在します。
給与明細がもらえないと自分の手取り額や残業代、社会保険料など、自分に対してどれだけの給与が支払われているかまったくわかりません。
結論から言うと、給与明細を発行する義務は会社にあります。
この記事では、給与明細の発行義務についてや罰則、給与明細の記載内容など、詳しく解説します。給与明細が会社からもらえなくて困っている方は、ぜひ参考にしてください。
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会社が給与明細を発行しないのは違法!
会社に対して、労働基準法において給与明細の発行は義務付けされていません。
しかし、所得税法では、給与を支払う者は給与の支払を受ける者に、支払明細書を交付しなくてはならないときちんと定められています。ですので、会社が給料明細を発行しないのは違法であり、給与明細は発行する義務があります。
参考:厚生労働省|(『知って役立つ労働法 働くときに必要な基礎知識』p.22 より抜粋)
給与明細には、給料がいくら支払われたか、残業代、交通費、社会保険料や所得税など、重要な内容が記載されています。
確定申告や年末調整の時に必要な情報も多いので、しっかりと内容を確認し、保管しておくことが大切な書類です。
給与明細に関する会社側の義務・罰則は?
給与明細に関する会社側の義務と罰則を詳しく解説します。
従業員側もしっかり理解することが大事です。
- 従業員全員に給与明細を交付する義務
- 給与の支払いまでに給与明細を交付する義務
- 給与明細関連の書類の保管義務
- 給与明細を発行しなかった場合の罰則
従業員全員に給与明細を交付する義務
会社は従業員全員に給与明細を交付する義務があります。
所得税法231条にて、会社には給与明細書を交付する義務が定められており、給与明細書を交付しないのは、所得税法違反となります。
現在では、給与明細の電子化が進んでいる会社もあり、紙の配布から電子メールやPDF、クラウドなどの電子データに変換して交付されていることもあります。
給与の支払いまでに給与明細を交付する義務
給与明細には交付期限があり、所得税法施行規則100条1項によると、給与の支払者は給与明細を給与の支払いの時に、その支払いを受ける者に交付しなければならないとされています。
つまり給与の支払日が25日の場合、給与明細は毎月25日までに交付をする必要があるということです。
給与明細を確認し、勤務時間や出勤日数、残業代など、しっかりと確認し、間違っている場合は、早めに会社に申し出る必要があります。そのため、給与明細を支払いまでに交付する必要性があります。
給与明細関連の書類の保管義務
会社側に給与明細の保管義務はありません。
しかし、給与明細は従業員に給与を支払ったという証明になるので、保管している企業が大半です。主に給与支払い額が間違っていた場合や、従業員からの未払い金請求の際に証拠書類として提出することが多いでしょう。
未払い賃金は、過去5年間まで遡って請求することができるので、思い当たる方は早めに会社に請求するようにしてください。
給与明細を発行しなかった場合の罰則
給与明細を発行しないと、所得税法違反となり罰則があります。
給与明細の不交付や、虚偽の記載をして交付をした場合、所得税法242条7号の規定により、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
例えば「給与明細が発行されない…」「給与明細を希望しているのに、まったくもらえない…」など、給与明細が発行されていない場合、所得税法違反となり罰則が会社に課せられます。
ですので、給与明細の発行を会社側に訴えるのは、従業員の権利です。
給与明細には何が記載されているのか?
そもそも給与明細には何が記載されているか詳しく知っているでしょうか?
給与明細には大切な内容を一覧できるように、給料以外に税金のことに関しても記載されています。
- 控除額
- 支給額
- 勤怠状況
ぜひこの機会に給与明細の中身を知り、しっかり確認してください。
控除額
厚生年金や健康保険、雇用保険や介護保険などの社会保険料や所得税、住民税など、あらゆるものが支給額から引かれます。
総支給額から社会保険料や税金が引かれる額が控除額で、年末調整や確定申告の際に必要なものになってきます。
支給額
支給額は全てを足した会社が従業員に支払う金額です。
基本給、交通費、残業代、休日労働手当や住宅手当など各種手当などもこちらに足されます。
支給額から社会保険料や税金が引かれた額が、手取り額となります。給与明細には「総支給額」や「支給額合計」と記載されていることが多いです。
勤怠状況
給与明細には勤怠状況が記載されています。
勤怠には出勤や欠勤日数、実働時間や残業時間などが詳しく載っていて、勤怠状況を基に給与は計算されているので、実際の勤務時間や日数が合っているかしっかり確認しましょう。
勤怠状況が間違っていると、そのまま給与に反映され、働いた分きちんと払ってもらえていないこともあるので、勤務時間や日数をメモなどに残しておくと安心です。
請求書の交付方法
会社側の義務とされている給与明細は、主に下記の2つの方法によって交付されます。
- 書面での交付
- データでの交付
近年では、ペーパーレス化や工数削減によってデータによる交付を行う企業が増えています。それぞれの交付方法やメリット、デメリットについて詳しく解説していきます。
書面での交付
多くの会社で書面による給与明細の交付が行われています。メジャーな交付方法ですが、紙で交付することで多くの手間やコストがかかってしまいます。印刷用紙やプリント、シールを張るなど作業工程が多く、効率的ではありません。郵送するにも切手代がかかるなど、多くのデメリットがあげられます。
また、社員数が多ければ多いほどコストがかかるうえに、紛失・盗難リスクも高まります。給与明細には、個人情報を含む機密情報が記載されているため、書面による交付はコストだけでなく、リスクも伴うでしょう。
データでの交付
2007年1月の所得税法改正によって、給与明細のデータ交付が法的に認められました。給与明細をデータ交付に変更することで、処理速度と正確性が高まります。さらに、近年ではペーパーレス化が推奨されているため、データ交付を行う企業が増加するでしょう。
また、データ交付にすることで、過去の情報を確認できたり、時間や場所問わず給与明細を確認できたりなどの利点があります。紛失や盗難リスクも低いため、データによる交付は企業と従業員どちらにも大きなメリットといえます。
給与明細がもらえない場合にするべきこととは?
給与明細がもらえないと困っている場合に、するべきことをご紹介します。
まずは次の2点を実行してみてください。
- 会社に給与明細を発行するように掛け合う
- 労働基準監督署に相談する
会社に給与明細を発行するように掛け合う
給与明細がもらえない場合、まずは会社に相談してみましょう。会社側も故意で発行していないのではなく、漏れてしまっていたり、電子化しており紙ベースで発行されていないだけということもあります。
電子化への切り替え時期など、従業員にきちんと伝わっておらず給与明細が発行されていないと勘違いしてしまうこともあるので、まずは会社に確認することが大切です。
会社に相談する場合は、まずは上司や経理の方に相談し、状況が変わらない場合は、会社の相談窓口に伝えてみましょう。
労働基準監督署に相談する
上司や経理、会社側にしっかりと訴えてみたけれど給与明細がもらえない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
会社は従業員に給与明細を発行しないと所得税法違反にあたるので、給与明細がもらえない場合はしっかり主張する権利があります。
労働基準監督署に相談し事実を確認の上、会社に指導が入るので、会社側も労働基準監督署から指導が入れば、動かざるを得ないので給与明細の発行をしてくれるはずです。
直接窓口に相談しにいけばスムーズですが、忙しく出向けない方は電話やメールで相談することもできるので、給与明細が発行されず困っている方は今すぐに相談してください。
給与明細の保管義務は?
給与明細の保管義務はありません。しかし、従業員からの問い合わせや再発行を求められた時に対応しやすいので、主に5年間保存している会社が多いです。
保管義務のある賃金台帳の保管期間が5年であることと、従業員が確定申告をする場合の還付・控除の時効が5年なので、5年間給与明細も一緒に保管している場合がほとんどです。
また、従業員から未払い賃金を請求された場合、給与を支払った証拠として給与明細が使われることもあるので、給与明細の保管は会社側にとっても大切です。
給与明細に関する注意点
給与明細を受け取った際は、勤務日数や受け取れる金額などを細かくチェックしましょう。
データであっても人の手で作成しているため、細かい部分にも注意して確認することが大切です。ほかにも給与明細に関する注意点は、下記があげられます。
- メール等での交付は違法ではない
- 確定申告や失業給付金の申請に必要なので保管しておく
- 給付金額に含まれている残業代等に誤りがないかをチェックする
- みなし残業の超過分は加算されているかも確認する
それぞれについて詳しく理解しておきましょう。
メール等での交付は違法ではない
受け取る側の注意点として、メール等による給与明細の交付は違法ではありません。前述のとおり2007年1月の所得税法改正によって、データ交付が認められています。現在は紙で給与明細を交付している企業も多いですが、ペーパーレス化が推奨されているため、後にデータ交付に変更される可能性があるでしょう。
また、給与明細をデータ交付するにあたって会社側は、従業員から快諾を得る義務があります。ただし、会社側は従業員から書面による交付を求められた場合は、応じる義務があります。どうしても書面で受け取りたい場合は、総務部や担当部署に相談してみましょう。
確定申告や失業給付金の申請に必要なので保管しておく
給与明細は、給与や勤怠を確認したら処分しても問題ないと考えている方もいるのではないでしょうか。しかし、何らかの手続きの際に給与明細が必要になるケースがあるため、処分せずに保管しておくことをおすすめします。
給与明細が必要となるケースは、主に下記があげられます。
- 確定申告
- 失業給付金の申請
基本的に会社員は、確定申告の必要はありませんが、住宅ローン控除やふるさと納税控除などを受ける際は必要になる場合があります。源泉徴収票が一般的ですが、「会社が倒産した」など源泉徴収票がないケースで給与明細でも代用が可能です。また失業給付金の受給資格を確認するために、離職票ではなく給与明細でも確認できます。
給付金額に含まれている残業代等に誤りがないかをチェックしよう
給与金額に含まれている残業代や差し引き支給額、銀行振込額などに誤りがないかを確認しましょう。給与明細は人の手で作成されているため、ミスが生じている可能性があります。銀行振込額のみを確認し、他はチェックしていない方も少なくないため、注意が必要です。
また、一例として介護保険は40代以上の人から徴収されます。もし20〜30代で介護保険が引かれている場合は、何らかのミスです。ほかにも気になる部分がある場合は、経理担当に相談しましょう。
みなし残業の超過分は加算されているかも確認する
みなし残業の場合は、特に給与明細を確認する必要があります。実際の勤務時間がみなし時間よりも少ないケースは特に問題ありません。
しかし、みなし時間を超えた場合は、会社側から超過分を支払ってもらう必要があります。みなし残業の場合は、あまり確認していない方も少なくありません。正しい給与をもらうためにもみなし時間を超えていない方は、きちんと確認してください。
仕事を辞めた後に源泉徴収票をもらえない場合の対処法
給与明細ももちろん大切ですが、源泉徴収した金額が記載されている源泉徴収票も確定申告の際に必要な資料です。
もし、一度辞めてしまった職場より源泉徴収票を受け取れていないという場合には下記のような手段を取りましょう。
- 元勤務先に税務署や労働基準監督署へ相談する旨を伝える
- 税務署にて源泉徴収票不交付の届出書を提出する
それぞれどのような方法なのかご紹介するので、確認していきましょう。
元勤務先に税務署や労働基準監督署へ相談する旨を伝える
仕事を辞めてからどれだけ時間が経っても源泉徴収票がもらえないという場合には、税務署や労働基準監督署へ相談するという旨を元勤務先へ伝えましょう。
会社として税務署や労働基準監督署へ相談されてしまうと、税務指導が入る恐れがあります。
会社の立場的に税務指導が入ることは避けたいので、この旨を伝えれば発行に応じてくれる可能性が高まります。
税務署にて源泉徴収票不交付の届出書を提出する
元勤務先へかけあっても源泉徴収票が交付されないという場合には、あなたの住民票がある地域の税務署へ行き、源泉徴収票不交付の届出書を提出しましょう。
この届を出すことによって、税務署より会社へ行政指導が入るため、源泉徴収票を発行してくれます。
もし、これでも発行してくれない場合には弁護士への依頼も検討しましょう。
労働に関するトラブルが起こった場合は弁護士への相談がおすすめな理由
万が一、労働に関するトラブルが起こった場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。会社の担当部署に相談するよりも迅速かつ適切な解決につながりやすいためです。
- 法律に則った対応をしてもらえる
- 会社側が対応してくれることが多い
- 法的手続きを取る際にもスムーズにことが進む
労働トラブルを弁護士に相談するのがおすすめな理由を解説します。
まずは相談という場合はサービスとして無料で対応してもらえる事務所もあるので、悩みを抱えている方は一度問い合わせてみてください。
法律に則った対応をしてもらえる
労働トラブルに精通している弁護士は、労務に関する法律を熟知しています。知識がない状態で行動に出てしまうと、新たなトラブルに発展する可能性があります。弁護士を挟むことで、法律に則った助言や対応をしてもらえます。
給与明細を交付したり、労働時間や規定に合った賃金を支給したりなど一見当たり前に思えますが、対応できていない会社も存在するのが現実です。弁護士に相談することで、法的な根拠に基づき、会社側の不備を指摘し、法令に従った対応を求めることができます。
会社側が対応してくれることが多い
従業員が会社に主張をしても門前払いされてしまうことも少なくありません。取り合ってもらえずに泣き寝入りするケースもあるでしょう。
しかし弁護士が交渉すれば、会社としても門前払いがしづらく、しっかりと対応してくれる可能性が高い傾向にあります。もし対応しなければ労働審判や訴訟などの法的措置を取られる可能性があるためです。
確実にトラブルを解決するためにも自分自身だけで完結しようとせず、弁護士に相談してみましょう。
法的手続きを取る際にもスムーズにことが進む
会社との交渉が決裂した場合は、労働審判や訴訟などの法的手続きを行います。法的手続きは専門性が高いため、一般の人が個人で対応するのは非常に困難です。スムーズに法的手続きを進めるためにも弁護士に相談することをおすすめします。
また、司法書士や社会保険労務士、行政書士などは、労働審判などに変わりに出頭することは原則できません。基本的に弁護士のみが労働審判や裁判に対応できるため、はじめから弁護士に相談するのがスムーズでしょう。
給与明細に関するよくある質問
給与明細に関するよくある質問を集めました。
- 給与明細を渡すのは義務付けられていますか?
- 給与明細を書面で渡されていなくても違法ではありませんか?
- 給与明細の保管は義務ですか?
- 給与明細をもらえなかった場合はどのようにすれば良いですか?
それぞれについて詳しく回答していきます。
給与明細を渡すのは義務付けられていますか?
労働基準法においては給与明細の発行は義務付けられていません。しかし、所得税法によって給与を支払う者は、支払いを受ける者に支払明細書を交付しなくてはならないと定められています。そのため、会社は従業員に給与明細を渡す義務があります。
給与明細を書面で渡されなくても違法ではありませんか?
給与明細はデータによる交付が法律上で認められており、書面で渡されていなくても違法ではありません。ただし、データ交付する場合は、従業員に快諾を得る必要があります。さらに従業員から書面の給与明細を求められた際は、応じなければならないと決められています。
給与明細の保管は義務ですか?
給与明細自体に保管義務はありません。しかし、給与計算にまつわる下記のような書類には、会社側に保管義務が定められています。
3年間の保管義務が定められている書類
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
7年間の保管義務が定められている書類
- 給与所得者の扶養控除等申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書
- 源泉徴収簿
一方で従業員側に保管義務はありません。しかし、確定申告や失業給付金の申請などに必要になるケースがあるため、保管しておくと安心です。
給与明細をもらえなかった場合どのようにすれば良いですか?
もし給与明細をもらえなかった場合は、下記の手段を取りましょう。
- 会社の担当部署に交付を請求する
- 給与支払明細書不交付の届出を提出する
- 労働基準監督署に相談する
- 弁護士に相談する
会社の給与明細発行は、人事部が担当しているケースが大半です。ただ忘れているだけのケースもあるため、まずは人事部に相談しましょう。もし断られた場合は、税務署や労働基準監督署などに相談してください。
給与明細がもらえないのは違法?まとめ
給与明細を発行しないのは所得税法違反で会社に罰則があり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
給与明細は従業員がもらえる列記とした義務です。もし、給与明細がもらえなくて困っているなら、すぐに会社に請求をしましょう。もし、会社側がまったく対応してくれないなら、労働基準監督署など外部機関に相談することが重要です。
ぜひこの記事を参考にして、自分の給与明細は必ず発行してもらいましょう。