「年収106万円を超えるとどうなるの?」
「年収106万円以内に抑えたほうがいいのかな…」
「金銭的な負担はいくら増えるの?」
と悩んでいませんか?
パートをしている人にとって年収の壁の中でも重要な「106万円の壁」。これを超えると扶養から外れてしまうからと、パートの時間を減らしている人もいるでしょう。
そこでこの記事では、年収106万円の壁について給与の計算方法や超えた場合の負担金額について解説します。106万円の壁のメリットとデメリットについて知り、あなたにとってベストな働き方をしていきましょう。
CONTENTS
「年収106万円の壁」とは社会保険加入に関する壁
年収106万円の壁は、社会保険の加入に関係します。年収106万円を超えると一部の人は配偶者の扶養から外れて、勤務先の社会保険に加入する義務が発生するのです。
社会保険とは年金と健康保険のことで、この2つは個別に加入することはできず、常にセットでの加入となります。つまり社会保険に加入すると、厚生年金保険料と健康保険料の両方を自分で支払う必要があるのです。
年収106万円の壁で社会保険料を負担することになる条件
年収106万円の壁は、全員が対象になるわけではありません。下記の条件に当てはまる人だけが関係します。自分が当てはまっているか、確認してみましょう。
□週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
□所定内賃金が月額8.8万円以上
※基本給及び諸手当を差します。ただし、残業代・賞与等は含みません。
□2ヶ月を超える雇用の見込みがある
□学生ではない
※休学中や夜間学生は加入対象です。
厚生労働省「社会保険適用拡大サイト|パート・アルバイトのみなさま」
チェックするポイントはこの4つです。2つめのポイントの月8.8万円という金額を12ヶ月分にすると105.6万円で、約106万円です。
これが「年収106万円の壁」の金額の由来となっています。この金額は、労働契約書に記載されている内容で計算します。基本給と諸手当で、毎月固定で支払われるものが対象です。計算のしかたについては、のちほど詳しく解説します。
2024年10月からは社会保険に加入する企業の適用拡大
先述した4つの条件は、年収106万円の壁に該当する従業員側の条件です。そして、勤務先の企業にも条件があります。現在は、従業員が101人以上の会社が年収106万円の壁の対象です。しかし、2024年10月からは、適用される企業が拡大されることが決定しています。
特定適用事業所に該当する適用事業所の企業規模は段階的に拡大され、令和6年10月からはさらに厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
政府は年収の壁の解消に向けて、各種の政策を行っています。そのひとつとして、この適用事業所の対象拡大が計画されています。
現在は、100人以下の会社に勤める人は社会保険の加入義務はありません。しかし、2024年10月から従業員51人以上の会社も対象になります。該当する人は年収106万円の壁についてしっかり理解しておきましょう。
関連記事:お金の勉強は何から始めるべき?知識の必要性や学ぶメリット、初心者におすすめの勉強法を徹底解説!
2023年10月からキャリアアップ助成金の支給を開始
ここまで読み進めて、これでは一方的にパートに負担がかかるだけではと思う人もいるでしょう。政府もそこは問題視しており、社会保険料が家計を圧迫するのを避けるための対策も打ち出されています。
厚生労働省では「年収の壁・支援強化パッケージ」と題し、年収の壁を超えた人を対象に手取り収入を減らさない取り組みを開始。106万円の壁を超えた人に対して社会保険料に相当する賃金の15%を追加支給した企業は、申請すると助成金を受給できます。
このキャリアアップ助成金を企業が活用すれば、従業員の負担軽減されることが期待できます。
関連記事:106万円の壁は超えるべき?収入の壁の条件やメリット・デメリットを紹介
年収106万の壁を超えているか計算する際の2つの注意点
ここでは、年収106万円の壁を超えないように年収を計算する時の注意点を解説します。この計算では、月に勤務先からもらう金額すべてを足し算するわけではありません。
年収106万円の壁超えを計算する注意点:
- 残業代や通勤手当・家族手当・賞与などは計算に入れない
- 「月額8.8万円以上」は1ヶ月のみでは判断されない
計算を間違えると、106万円の壁を超えないための労働時間の計算が狂い、もっと働けるのに労働時間を削って損をするかもしれません。あるいは超過してしまい、意図していないのに社会保険に入ることになってしまいます。正確に計算するため、この2つの注意点をよく頭に入れておきましょう。
①残業代や通勤手当・家族手当・賞与などは計算に入れない
年収106万円の壁の計算では、労働契約書に記された賃金の額と労働時間を使います。まず、計算するのは基本給と諸手当です。
基本的には毎月固定で支給されるものが対象となりますが、通勤手当は計算にいれません。そして、諸手当のなかでも休日出勤手当・残業手当・賞与は計算から除外できます。
計算式は、「時給×週の労働時間×52週÷12ヶ月」です。つまり、時給に含まれない手当は、計算に入れなくてもよいということです。この時給に資格手当などが含まれる場合は、その資格手当は計算対象に入ることになります。
②「月額8.8万円以上」は1ヶ月のみでは判断されない
月額8.8万円以上の条件は、1ヶ月でも超えたら対象になるということではありません。「連続3ヶ月で超えたら」と誤解されていることもありますが、それも違います。
あくまで「時給×週の労働時間×52週÷12ヶ月」が8.8万円を超えるかで判断します。労働契約書などに明記されている時給と労働時間で計算して8.8万円以上となった時点で、社会保険の加入義務が発生するのです。
関連記事:130万円以上稼ぐと扶養から外れる?扶養のメリット・デメリットも紹介
年収106万円の壁を超えて社会保険に加入する3つのメリット
106万円の壁を超えないよう調整している人が多いため、社会保険料を負担することは損をするイメージがあります。しかし、保険料の負担はあるものの、社会保険に加入するメリットはしっかり存在します。
年収106万円の壁を超えるメリット:
- 将来受け取る年金額が増える
- 万が一障がいがある状態になった際の年金額も増える
- 傷病手当金・出産手当金などが受け取れるようになる
年金保険料を支払うと、将来における年金額はもちろん、その他のセーフティネットともいえる各種手当金にも反映されます。毎月支払う年金保険料ともらえる保険料の比較から解説します。
これらのメリットについてよく知った上で、年収106万円の壁を超えるか考えてもいいかもしれません。
①将来受け取る年金額が増える
厚生年金に加入する一番のメリットは、老後にもらえる年金額が増えることです。厚生年金は、保険料を雇用主と労働者で折半しています。
つまり、自分の収入から差し引かれる金額の2倍を、将来のために納めていることになるのです。年収106万円の壁の境界である月収88,000円をモデルケースとして考えてみましょう。
モデルケース(月収88,000円) | 保険料 | 増える年金額(目安) |
---|---|---|
40年間加入 | 月額8,100円(年間97,200円) | 月額18,000円 |
20年間加入 | 月額8,100円(年間97,200円) | 月額9,000円 |
1年間加入 | 月額8,100円(年間97,200円) | 月額450円 |
引用元:政府広報オンライン「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入により手厚い保障が受けられます。」
月収88,000円で厚生年金に40年間加入した場合、年間の厚生年金保険料の負担は97,200円です。それによって受け取れる年金は月額18,000円、年額にして216,000円増えます。
20年間加入なら、払う保険料の年額は同じく97,200円、増える年金の年額は108,000円となります。年金は生きている限り給付を受けられるため、それを考えると加入するメリットはあります。
関連記事:年金定期便の見方は?毎月いくらもらえるかの計算方法と確認ポイントを解説
②万が一障がいがある状態になった際の年金額も増える
厚生年金に加入していれば、障害年金も増額されます。障害年金は、国民年金の納付条件を満たしている人が病気や事故などで障害等級1~3級に当てはまった場合に受け取れます。
扶養内で受け取れるのは障害基礎年金のみです。厚生年金加入者は、障害厚生年金として上積みされた金額を受け取れます。
③傷病手当金・出産手当金などが受け取れるようになる
社会保険に加入すると、セーフティネットとして傷病手当金や出産手当金も受け取れるようになります。傷病手当金は、被保険者が業務外の理由で病気や怪我で働けなくなった際に支給される手当です。
最大1年6ヶ月の支給期間があり、生活の支えとなります。傷病手当金も出産手当金も、対象は被保険者のみです。金額は働けなくなる前の給与の額から計算されるので、社会保険料を多く払っている人ほど多く受け取れます。
年収106万円の壁を超えて扶養から外れるといくら負担が増える?
大きなメリットもある社会保険への加入ですが、気になるのはいくらかかるのかという点です。社会保険に加入して払わなければならないのは下記の2種類です。
年収106万円の壁を超えた際の負担額:
- 扶養の範囲を超えた場合の健康保険料
- 扶養の範囲を超えた場合の厚生年金保険料
夫の扶養を外れて、今まで必要なかった社会保険料を自分で支払うとなると金額は大きな問題です。ここでは、扶養の範囲を超えた場合の健康保険料と厚生保険料の金額を確認しましょう。
①扶養の範囲を超えた場合の健康保険料
年収106万円を超えて扶養から外れた場合、会社の健康保険に加入することになります。健康保険料は、「標準報酬月額×健康保険料率」で決まります。健康保険料率は自治体によって違うため、あなたが加入している健康保険のホームページで自治体の保険料を確認しましょう。
たとえば、月の収入が9万円の場合、東京都在住の人の健康保険料は約8,600円です。社会保険料は雇用主と折半するため、自分で払う健康保険料は約4,300円となります。40歳以上の人は、これに介護保険料が加わります。ちなみに、夫の健康保険の扶養に入っていた場合と比べ、夫が支払う健康保険料の金額は変わりません。
②扶養の範囲を超えた場合の厚生年金保険料
月8.8万円を超えて厚生年金に加入すると、保険料は「標準報酬月額×保険料率」で計算されます。日本年金機構のホームページで早見表を閲覧できるので、あなたが目標とする収入における保険料を確認してみましょう。
たとえば、月収が9万円なら、厚生年金保険料は16,104円となります。健康保険料と同じくこの金額を雇用主と労働者で折半するので、自己負担は8,052円です。計算式のとおり、収入が上がればその分保険料も上がっていきます。そして、将来の年金の額に反映されるのです。
年収106万円の壁以外の年収に関わる4つの壁を解説
従業員101人以上の会社で働く人に関わる年収106万円の壁だけでなく、他にも年収の壁が存在します。ここでは、この4つを紹介します。
年収106万円の壁以外の4つの壁:
- 年収130万円の壁とは
- 年収103万円の壁・150万円の壁・201万円の壁とは
まず年収130万円の壁について、その後に103万円・150万円・201万円と分けて説明します。その理由は、何に関わる年収の壁なのかが違うためです。それでは、詳しく見ていきましょう。
①年収130万円の壁とは
年収106万円の壁と対になるのが、「年収130万円の壁」です。106万円で社会保険の加入対象に該当しなかった人が、夫の社会保険の扶養を外れてしまうのが年収130万円なのです。
第3号被保険者(被扶養者)の年間収入の見込額が130万円以上となった場合(注2)、配偶者の扶養から外れ、国民年金・国民健康保険の保険料負担が生じる
厚生労働省「女性の就労の制約と指摘される制度等について(いわゆる「年収の壁」等)」
年収106万円の壁では、社会保険の加入対象は従業員101人以上(2024年10月以降は51人)の会社に勤める人です。それ以外の会社であれば、106万円を超えても夫の社会保険にとどまれます。
しかし、年収130万円を超えるとすべての人が自分で社会保険に加入せざるを得なくなるのです。今度は夫の方の社会保険の規定にひっかかり、扶養の対象外とされてしまうからです。
②年収103万円の壁・150万円の壁・201万円の壁とは
つづいては、103万円・150万円・201万円の壁で増える負担について説明しましょう。
パート収入が103万円以下でほかに所得がなければ、その方に所得税及び復興特別所得税はかからず、また、その方の配偶者は配偶者控除を受けることができます。
国税庁「家族と税」
配偶者特別控除が設けられていますので、妻がパ-トで働いて103万円を超える給与収入を得る場合でも、150万円までは夫の配偶者特別控除の額は減少しません。150万円を超え、収入が増えるにしたがって夫の配偶者特別控除の額はなだらかに減少することとなります。
稲沢市「配偶者のパート収入について」
配偶者のパート収入が103万円超201万6千円未満で、ほかに所得がなければ、配偶者特別控除を受けることができます。
国税庁「No.1800 パート収入はいくらまで所得税がかからないか」
まず、年収103万円を超えると、所得税がかかるようになります。同時に38万円の配偶者控除も受けられなくなりますが、代わりに150万円までは同じ額の配偶者特別控除を受けられます。
その後、妻の収入が増えるごとに徐々に配偶者特別控除の額は減少。201万円になると配偶者特別控除からも外れます。この3つの壁は、所得税と配偶者控除にまつわる壁です。年収の壁を超えると本人の税負担が発生し、夫の所得控除も減って税金が増えていきます。
まとめ:106万円の壁を理解してキャリアプランを考えよう
106万円の壁を超えると、従業員101人以上の会社に勤める人が勤務先の社会保険加入が必要になります。つまり、厚生年金保険料と健康保険料が収入から天引きされて、手取り額が減るのです。
一方、将来もらえる年金額が増えたり、いざという時の障害年金などが増えたりとメリットもあります。大切なのは、106万円の壁を理解してあなた自身のキャリアプランを組み立てることです。メリットとデメリットを理解した上で、あなたにとってベストな働き方を選びましょう。